朝ドラ『カムカムエブリバディ』の上白石萌音と松村北斗のW主演で、劇場公開時から気になっていましたが、DVD発売まで待って、自宅でゆっくり鑑賞しました。
PMS(月経前症候群)で、月に一度、イライラしてしまう藤沢さん(藤沢美沙28歳)を演じるのが上白石萌音ちゃん。
パニック障害で、電車にも乗れない、他人との距離をとっている山添くん(山添孝俊25歳)を演じるのが松村北斗くん。
原作は、尾瀬まいこ著、小説『夜明けのすべて』です。
映画は、原作の基本を崩さない範囲内でいくつかの設定が変更されているそうです。
また、原作ファンによると、面白いエピソードがカットされていたり、セリフが省略的だったりするそうで、惜しむ声も聞かれます。
私は原作を未だ読んでいないので、読んでみようと思います。
観た感想は、結論から先に言うと、とても良かったです。
この作品には、ストーリーらしいストーリーがありません。
職場と自宅を往復する日常が、淡々と描かれているだけです。
そういう映画をいいと思える人にはいい映画です。
大きな事件も起こらず、ラストはあっけなく終わってしまいます。
というより、日常生活にラストは無い、といった感じです。
萌音ちゃんと北斗くんのラブストーリーを期待した人には肩透かしです。
だけど、見ていて心地良く、もっと見ていたい、という気持ちになります。
どこか、古風な感じに撮られていて、一つ一つのシーンが、そこはかとなく、心に沁みてきます。
この人たちがどうなっていくのか?ずっと見守っていたいくなります。
ネタバレ無しの解説はここまでです。
未だ観ていない人は、是非ご覧ください。
原作小説に、映画『ボヘミアンラプソディ』を観た藤沢さんが、夜遅くに山添くんの部屋を訪ねるシーンがあるそうです。
藤沢さんは、映画が面白かったので、興奮した気持ちで、その感動を誰かに話したいのですが、未だ観ていない人に話してしまうとネタバレになってしまうので誰にも話せません。
山添くんなら、パニック障害で電車にも乗れず、映画館にも行けないので、どうせ観ないのだから、ネタバレの話をしても構わない、という藤沢さんの勝手な理屈だそうです(笑)
ここから先は映画のネタバレあり、更に解説します。
既に観た人、どうせ観ない人、ネタバレ容認の人はお読みください →
最初に、この映画にはストーリーが無いと書きました。
しかし、正確に言うと起承転結のような典型的な物語の基本構造になっていない、と言うことです。
冒頭は、起承転結の『起』に当たる導入で、藤沢さんのPMSがちょっと凄くて、転職せざるを得なくなります。
次に、起承転結の『承』に当たる展開で、ちょっと変わった青年(山添くん)に出逢います。
で、そこから、起承転結の『転』に進まず、また同じように『起』と『承』が繰り返されます。
山添くんもパニック障害で転職せざるを得なくなり、そこで変わった女性(藤沢さん)に出逢ったことです。
PMSとパニック障害の症状が、事件といえば事件なのですが、周りが理解を示せば事件ではなくなります。
それらは、やがて日常に溶け込んでいくのです。
ここから二人のラブストーリーが展開するのか?と、僅かな期待が生まれます。
山添くんには彼女がいたのですが、その彼女が山添くんの部屋の前で、偶然に藤沢さんに出会います。
彼女は、藤沢さんに対して「藤沢さんみたいな方が会社にいてくれてよかったです」と言います。
そして、彼女は、やがて山添くんに別れを告げて、遠くに去って行ってしまいます。
そこからは『転』がありそうで無いまま、小さな『承(日常のエピソード)』が繰り返し、状況は少しずつ変化していきます。
実際に、私たちの日常生活には、劇的な物語展開は起こりません。
小さな問題を少しずつ解決して、少しずつ状況を改善していきます。
山添くんは、今の会社にやりがいを感じなくて、パニック傷害が改善したら、元の会社に戻るつもりでいました。
しかし、藤沢さんと一緒に移動式プラネタリウムを作る仕事をして、気持ちが変わり、今の会社に留まることにします。
一方、藤沢さんは、母親の介護をするために、地元に戻って転職することにしました。
藤沢さんのPMSも、山添くんのおかげで、上手く抑えられるようになったけれど、これからも上手くできるかどうか?
お母さんの介護は、普通の人でも精神的に負担が大きいのに、イライラして爆発してしまうのではないか?
それぞれが次のステップに進めるようになりましたが、また次の課題に直面することになるでしょう。
二人は離れ離れになりますが、特にドラマチックな別れがあるわけでもなく、あっさりとさよならします。
何事もなかったような、さばさばとした日常の情景が流れるエンドロールを見ながら、もしかしてポストクレジットがあるのかな?と、少し期待しました。
しかし、それも無く、『転』も無ければ、やはり『結』も無い、エンデイングの無いエンディングでした。
また、少し経って忘れた頃に、もう一度観たいと思います。
【関連する記事】