夏は冷えたビールを飲むことも多いし、冬は燗した日本酒を飲むこともあります。
それらは、夕食の時間に、食事のお供として、日常的に飲むお酒です。
それとはちょっと違って、たまにはBARでお酒を楽しみたいと思って飲むのが、カクテルだったり、ウィスキーだったり、非日常的なお酒ですね。
(※ 健康のためにも、強いお酒は、非日常にしておいたほうがいい)
若いころは、あまりウィスキーを飲みませんでしたが、大人になって、ウィスキーを飲むようになって、サントリーのシングルモルトウィスキー山崎に出会ってから、ウィスキーが好きになりました。
ですから、以前は、もっぱら山崎ばかりを飲んでいて、それ以外のウィスキーは、山崎と比べてしまうと、美味しいと思えず、ほとんど興味がありませんでした。
ところが、山崎が世界的なウィスキーのコンペティションで、賞を軒並み受賞(総なめ)にすると、ジャパニーズウィスキーブームみたいなものが始まって、あれよあれよという間に山崎が店頭から姿を消し始め、続いて響が消え、白州が消え・・・
NHKの朝ドラ『マッサン』が放送された時も、ニッカの竹鶴や余市や宮城峡が消えましたね。
その後ずっと現在に至るまで、ジャパニーズウィスキーは品薄状態が続き、プレミアム価格、抽選販売、値上げ・・・
そうなると、だったら定価で簡単に入手できる外国のウィスキーを飲もうかな? と思い、外に目が向き始めました。
2019年、山崎蒸留所見学にて。
【山崎12年】【山崎NA】
5~6年くらい前までなら、まだ山崎12年が1万円で買えました。
最近は、12年はもう無理ですが、かなり頑張れば、NAは入手可能かな?
12年とNAの違いは、もちろん熟成年数の差から来る深みの違いが大きいのですが、使っている樽の違いによっても、風味が異なっていると感じます。
12年は、シェリー樽主体ですが、NAにはワイン樽が使われていて、後に残る干しブドウのような香りが特徴的です。
花のような香りと甘さは、ストレートかロックで、じっくり味わうのがいいと思います。
【白州NA】
白州は、12年を飲んだことがなくて、時々NAを飲むくらいなのですが、清涼感のある爽やかな香りが特徴的です。
木桶醗酵という作り方にこだわり、 蒸留される以前の発酵液(もろみ)の段階から樹木を意識させますね。
実際には、樹木の香りは、醗酵の段階ではなく、蒸留後の樽熟成の段階で身に纏うものです。
醗酵槽では、酵母菌や乳酸菌の働きによって、醗酵液(もろみ)の風味が変化します。
檜風呂(カラ松など針葉樹製)みたいな木桶で醗酵させることで、乳酸菌の働きが活性化して、京都のすぐき漬けのような爽やかな酸味が醸されます。
(山崎も木桶醗酵を一部使用しています)
熟成にはアメリカンホワイトオークのバーボン樽を使用し、バニラのような、フルーティーな、林檎の皮ような香り、ドライですっきりとした味わいに仕上がっています。
ミントの葉をチョンと添えて、森香るハイボールで頂くのが、最高に美味しいと思います。
【知多】
サントリーの日本国内のウイスキー蒸所は、山崎蒸留所、白州蒸留所とくれば、もう一つ、知多蒸留所もあります。
シングルモルトウィスキー山崎と白州は、大麦麦芽を原料とするモルトウィスキーなのですが、知多はモルトではなく、トウモロコシを原料とするシングルグレンウイスキーです。
ブレンド用(副原料)の安価な原酒としての色合いが強いグレン原酒ですが、殆ど特徴の無いスピッリツも、山崎や白州と同様の樽熟成でしっかり仕上げられ、それらに引けを取らない深みを獲得しています。
最近では知多も値上がりし、品薄になりました(写真は空き瓶、笑)
【響】【碧(Ao)】
山崎、白州、知多、三つの蒸留所の原酒をブレンドしたブレンデッドウィスキーが響きです。
響きの特徴は、フローラルな香りです。
桜樽熟成原酒もヴァッテングされているらしい? です。
ジャパニーズウィスキーは、日本で製造されているというだけではなくて、ジャパニーズオークと呼ばれているミズナラの新樽で熟成された原酒が、大きな特徴の一つです。
その特徴は、山崎と響に顕著に表れていて、京都のような、舞妓さんのような香りを感じます。
サントリーのブレンデッドウィスキー碧(Ao)には、山崎や白州の原酒がヴァッティングされていますが、外国の原酒もヴァッティングされていて、日本的な特徴はありません。
主張の強いアイラモルトのピーティーでスモーキーな香りが目立っています。
【シーバスリーガルミズナラ12年】は、ジャパニーズウィスキーのように、ミズナラ樽の香りを狙って作られたブレンデッドスコッチウィスキーです。
ミズナラ樽は、熟成段階ではなく、カスクフィニッシュで使用されています。
ハチミツのように甘く華やかで、お花畑にいるような気分になるウィスキーです。
ジャパニーズオーク(ミズナラ)を使っていますが、ちょっと和菓子的なテイストを感じなくもありませんが、日本的とまではいえませんね。
かなり美味しくて、日本人好みであろうと思いますが、やはりスコッチウィスキーです。
【ジョニーウォーカーグリーンラベル15年】は白州と似た方向性を感じるブレンデッドモルトスコッチウィスキーです。
ブレンデッドモルトというのは、モルト原酒だけをヴァッテングして、副原料のグレン原酒は含まれていません。
アイラ島のカリラ蒸留所、スカイ島のタリスカー蒸留所、スペイサイドのクラガンモア蒸留所とリンクウッド蒸留所、四つの蒸留所のモルト原酒をヴァッティングしていて、アイランズモルトは、かなりスモーキーなのですが、仕上がりはそれほど癖は無く、かなり穏やかな、バランスいいスモーキーさに抑えられています。
これら四つの蒸留所の全てが、木桶醗酵によって発酵液(もろみ)を仕込んでいます。
だから白州に似ている、かどうかは別にして、白州NAに引けを取らない美味しさです。
白州12年を飲んでいないのでわかりませんが、ジョニーウォーカーグリーンラベル15年の長期熟成された柔らかな大人っぽさからすると、白州12年のほうが似ているのかも知れないと推測します。
白州NAは、もっと若さ(良い意味で)、フレッシュさ、爽快感が特徴的です。
おそらく、白州12年は、更にその上をいくような香り立ちの強さ、奥深さが引き出されいて、レベルが違うのだろうと思いますが。
【モンキーショルダー】という、面白いブレンデッドモルトスコッチウィスキーがあります。
こちらはスペイサイドの三つの蒸留所(グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィ)のモルト原酒をヴァッティングしていて、ボトルデザインに、三匹の猿のエンブレムが取り付けらています。
シッポがくるっと渦巻いて、私が描く蜘蛛猿『三猿(見ざる聞かざる言わざる)』に通じる、御縁を感じます。
見た目、味、香り、三拍子揃った、バランスが良い、誰からも愛されるタイプだと思います。
味の特徴としては、特別な個性は感じないけれど、良い意味で、癖が無い、嫌われない、親しみを感じる、信頼できる・・・
じゃあ、癖が強いと嫌われるのか?というと、多くの人からは嫌われるかも知れませんが、逆に嵌ってしまう人もいるのが嗜好品で、そこが面白いのです。
【ボウモア12年】
スコッチウィスキーの個性(癖)は、ピーティー、スモーキーな香りです。
特に、アイラモルトのピート香は、ヨード臭を含んだ、消毒液のような臭いです。
強烈なものは正露丸に喩えられますが、穏やかなものは磯の香に例えられます。
ピーティーは、ピート(泥炭)が持つ独特の香りから来るもので、スモーキーは、それを燃やした焦げ臭さから来るもので、どちらもピートを焚いた燻煙臭です。
ボウモア12年は、ピーティーでスモーキーなのですが、アイラのシングルモルトの中では、最も穏やかだといわれています。
ストレートでは、まだ癖を感じて好き嫌いが分かれるかも知れませんが、ハイボールにするとピーティが隠れてスモーキーが際立ってきます。
ボウモア12年も、木桶醗酵、バーボン樽熟成なので、フルーティーで、ハイボールに適した風味です。
バーボン樽熟成というのは、アメリカンウイスキーであるバーボンを貯蔵熟成させるために使用したアメリカンホワイトオークの新樽を、使用後にウィスキーの貯蔵熟成に再利用することです。
バーボン樽は、樽の内側を強く焼いて焦がしてあるので、スモーキーとはまた違うビターな香ばしさが加わります。
【フォアローゼスプラチナ】は、バーボンウィスキーです。
バーボンウィスキーは、知多と同様にグレンウィスキーなので、トウモロコシ原酒が主体です。
副原料として、主にライ麦原酒や、その他の穀物原酒がバッティングされる場合もあります。
内側を強く焼いたアメリカンオークの新樽で貯蔵熟成します。
フォアローゼスプラチナは、長期熟成させた、樽香の豊かなバーボンウィスキーです。
バニラやココナッツや生クリームのような甘い芳香の余韻が長く持続します。
アルコールの刺激感は全く無く、濃厚でありながら、とても優しい口当たりです。
まるで香水かと思わせる、ブランデーやラム酒のように、香りを楽しむウィスキーです。
【ニッカブランデーX.Oデラックス白】は、ウィスキーではなく、ブランデーです。
ニッカウヰスキー株式会社という社名は、創業時には、大日本果汁株式会社という社名でした。
大日本果汁を省略して日果 → ニッカ(NIKKA)と読ませてブランド名になりました。
ですから、創業時には、北海道で林檎ジューズを作る事から始めた会社です。
その余った林檎ジュースを原料に、林檎酒(フランス語でシードル、英語ではサイダー)を造り、ブランデーも造りました。
そして、ブランデーを造るための蒸留器を利用して、ウィスキーも造り始めました。
現在はウィスキーのメーカーとして、すっかり有名になりましたが、先ずは林檎から始めた、ニッカのアイデンティティーがここにあります。
林檎のブランデーは、フランスのノルマンディー地方で造られているカルヴァドスというブランデーと同じ製法です。
原材料が、葡萄ではなくて林檎なのは、生産地の気候が寒冷で、葡萄よりも林檎の栽培に適しているからです。
イギリスと、フランス北西部と、北海道と、気候的に共通しています。
(今後、地球温暖化による気候変動が、どう影響するか分かりませんが)
ジャパニーズウイスキーのように、日本のブランデーが世界に認めれる日が来るといいですね。
お酒のような嗜好品は、希少品がプレミアム価格で売買される傾向にあります。
それは、アート作品も同様で、逆に言えば、意図的にブームを煽り、価格を高騰させる事が可能です。
生活必需品ではなく、あくまでも嗜好品ですから、やりたい人たちだけで加熱していればいいのですけれど、それにしても、物の売り買いに関しては、適正価格があると言いたいです。
物事の価値は、付加価値も含めて、本来の価値と、金銭による取引価格と、切り離して考えるべきです。
市場取引価格は、需要と供給のバランスによって変動しますから、需要(欲望)を加熱させた上で、供給を制限すれば、そのバランスは大きく偏ります。
それによって発生するのが、プレミア価格ってやつです。
私は、このプレミア価格に対しては否定的な立場を取ります。
市場のプレミア価格は、生産者には、直接的には還元されません。
そのような価格の変動によって、本来の適正な価値評価を崩されてしまうのであれば、消費者にとっても、生産者にとっても、迷惑な話です。
だから、私は、プレミア価格では買いません、欲しくても我慢します(笑)
転売ヤーたちによる投機的な振る舞いに加担することは、健全な市場を壊すことに繋がります。
もちろん、生産者が適正な値上げをするのであれば、それは受け入れますし、逆に安売り競争による買い叩きなどには、断固反対します。
いかに、物事の価格(付加価値も含め)を適正に評価し、安定した需要と供給を維持していくか?
アートにおいても、嗜好品においても、それを文化の保護と継承と捉えた場合には、一部の愛好家たちだけの問題ではなく、社会全体で考えていく課題です。
最後に一言。
アルコールの飲み過ぎには注意しましょう。
そして、榎俊幸作品集『楽園と人間』も宜しくお願いします。
【関連する記事】