2017年05月23日

騎士団長殺し/村上春樹

村上春樹著「騎士団長殺し」を読みました。
この作品の主人公は絵描きです。私も絵描きなので、自分に重ね合わせました。著者がどの程度絵描きを理解できているかというと、かなりよく理解していると思いました。絵描きに興味のある人は、是非読んでみてください。

【笑】
この作品は、これまでの村上作品と比較しても、かなり面白いです。しかし、途中で「え???」という感じで揺さぶりを掛けられます。そこでついていけない人は、ついていけないかも知れません。著者のユーモアセンスが、笑っていいものかどうか、どうかしちゃったのか、不安になるレベルで戸惑います。でも、読み進めて行くうちに、わかる人にはわかります。イデアやメタファーを読み解くには、センスと、多少の教養も必要です。

【音楽】
村上作品の特徴として、音楽(曲名)がちょいちょい出てきます。この作品も例にもれず、作中でレコードがあれこれかかるのですが、最初は、興味を持って、ネットで検索して、それらをBGMに聴きながら読みましたが、途中からもう面倒になってきてスルーしました。何事もやり過ぎると飽きられますよ。

【絵】
絵に関しては、小説なので、文章で描写されるだけで、画像的には読者が想像するしかありません。そこで読み手の差が出るかも知れません。たとえ美術に詳しい人でも、自分が脳内に絵を描けるか? というと、なかなかそこまでの絵心は無いかも知れません。つまり、見たことの無い名画を想像しようと思っても、その人の画力のレベルでしか想像できないのです。普通の人(絵の素人)であれば、何が描いてあるか、具体的な説明に囚われて、どうしても駄作しか想像できないでしょう。絵描き(プロ)の想像力だと、何が描いてあるかは、あまり問題にしません。それよりも、名画であるとか、構図が完璧だとか、見た人の感想を優先して、絵の雰囲気から想像します。読み手の能力が問われる小説です。

【無い】
全部読み終わってから気が付くことですが、主人公には名前がありません。
きっと名前はあるのでしょう。しかし、主人公である「私」の一人称で語られる物語の中に、その名前は最後まで語られませんでした。顔の無い男で始まり、名前の無い主人公、実体の無いイデアとメタファー。 無いものばかりです。
「在る」は実体ですが、「無い」は概念です。
絵を描いていると実感することですが、「在る」は描けますが「無い」を描くのは、とても難しいことです。


posted by eno at 22:35| 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする