2023年05月28日

街とその不確かな壁

村上春樹著『街とその不確かな壁』を読みました。
発売直後に購入して、先に一気読みした友人と、FBのメッセージで感想を話し合いながら、少しずつ読み進めて、約1ヶ月かけて読了しました。
既に読み終えた友人が「主人公の『私』は西島秀俊さんしか思い浮かばない」と言うので、私も途中から、映画『ドライブマイカー』の家福(西島秀俊)を思い浮かべながら読みました(笑)
西島秀俊のセリフ棒読み感が、村上春樹の小説にマッチしていて、もしこの『街とその不確かな壁』を映画化するのなら、主人公の『私』は西島秀俊しかない、と思いました。
しかし、小説は三部構成で、『私』になるのは第二部からです。第一部では、未だ17歳の高校生『ぼく』なので、その部分は他の若い役者をキャスティングしなければなりません。
西島秀俊が17歳だったのは1988年で、まだデビュー前です。
西島秀俊の若い頃の顔を見ると、二宮和也に似ているのですが、二宮くんもそんなに若くありません。
もっと若い俳優だと、坂東龍汰が似た雰囲気だと思います。

第一部は、空想上の『壁に囲まれた街』と『この実際の世界』が、交差しながら描かれます。

村上春樹が、第一部の壁に囲まれた街の原案となる短編の着想を得たのは1980年かそれ以前のドイツ旅行中だったそうです。
その当時のドイツといえば、ベルリンの壁があった時代ですから、壁に囲まれた街はベルリンがモデルなんじゃないかと思ってしまいそうですが、小説を読んでみるとそんな雰囲気ではなくて、もっと田舎の小さな街を描写しています。
その情景描写に当て嵌まる街を探してみると、南ドイツのネルトリンゲンという中世の城壁都市が浮上してきました。
このネルトリンゲンという街は、漫画『進撃の巨人』のモデルになった街ともいわれていて、尚且つ、隕石落下で出来たクレーターの中にある街でもあり、アニメ映画『君の名は。』の糸守町のモデルなんじゃないか?とも思ってしまいます。
そして、猫の街でもあります。

村上春樹が、その短編を自身でリライトして『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』を発表したしたのが1985年です。
その、世界の終わりを再び自身でリライトしたのが、この小説の第一部で、その後(第二部・第三部)が書き加えられました。

第一部で、この実際の世界のぼくは、海に近い静かな郊外の住宅地に住んでいます。
そこから電車を二度乗り換えて1時間半ばかりかかる大きくて賑やかな都市の中心部に、1歳年下の彼女『きみ』が住んでいます。
きみの家の近くに地下鉄の駅があるので、最初は東京の都心部なのかと思いましたが、その後で、東京ではないとわかります。
ぼくは、最初は地元の大学に進むつもりでいたけれど、きみ(の思い出)から物理的距離を置くために、あえて東京に出て行きます。
きみの街には公共の植物園があり、その植物園の温室の隣にはカフェがあります。
そのカフェでコーヒーと林檎のタルトを注文します。
また『きみの家の近辺には川も流れていなかったし、もちろん海もなかった』と書かれています。
つまり、街の中心が川や海から離れている、ということです。
それらの条件で、きみが住む街を絞っていくと、札幌市、名古屋市、のどちらかになります。

札幌市には地下鉄があります。
札幌市には海がありません。
川は、豊平川がありますが、あまり目立つ存在ではありません。
北海道大学植物園があり、温室の隣にCAFE DE MADELというカフェがあります。
第二部の後半で登場する喫茶店の女店主は、私に、札幌から来たと話します。
1歳年下の彼女と、喫茶店の女店主を重ね合わせる目的で、札幌が仄めかされている、と考えられなくもありません。
しかし、それを聞いた私は、もし同郷ならば札幌(あるいは北海道に対して)に反応するはずなのに、スルーしました。
なので同郷である可能性は低いです。

名古屋市には地下鉄があります。
名古屋市には名古屋港があり、庄内川もありますが、いずれも市の中心ではなく、市の外周部にあります。
名古屋市内には、名古屋大学の隣に東山動植物園があり、その温室の隣にはガーデンテラス東山というレストランもあります。
あるいは名城公園フラワープラザもあり、温室の隣にDEAN & DELUCAというパン工房併設型ベーカリーカフェがあります。
あるいは名古屋市緑化センターもあり、温室の隣にヌンクヌスクという古民家カフェがあります。
村上春樹は『色彩を持たない多崎つくると、その巡礼の年』で名古屋を舞台に描いているので、名古屋をよく知っているはずです。
きみが住む街は、名古屋市である可能性が高いです。

きみが住む都市を名古屋市だと仮定すると、ぼくが住む郊外は、そこから電車を二度乗り換えて1時間半かかる海辺の静かな住宅地です。
愛知県内なら豊橋市、三重県側なら津市になります。
きみが中心部で、ぼくが郊外、という表現をしているので、おそらく豊橋市でしょう。

ぼくは、高校を卒業して、東京の私立大学に進学します。おそらく早稲田大学の文学部で、早稲田から近い新宿区の神楽坂(新潮社の近辺)に住み始めたと予想されます。
その後就職して、アパートを移り、この実際の世界のぼくはもう45歳の中年男になります。



第二部では、中年男である主人公は『私』に変わります。

私は東京都中野区の賃貸アパートで独り暮らしをしています。
ある夢を見たことがきっかけで会社を辞め、福島県のZ**町という地方都市の図書館の図書館長になり、その町に移り住みます。

Z**町のモデルになった街はどこか?
第二部29章の中頃(204ページ)に、福島県Z**町について書かれています。
『会津若松駅からローカル線に乗り換えて、一時間ほどでそこに着く、人口は一万五千人ほど』
実在する町では、福島県南会津町がこの条件に当て嵌まります。
そして、南会津町にある CAFE JI MAMA という喫茶店が、Z**町の名前の無い喫茶店のモデルになっている喫茶店です。
実在する南会津町図書館は、コンクリート製のビルですが、Z**町図書館は、元は古い酒蔵の木造建築を改装したことになっています。
南会津町には古い酒蔵もいくつかあり、近くに川が流れ、林檎園もあります。
南会津町の北に会津磐梯山があり、その向こう側に五色沼があります。
想像上の街である壁に囲まれた街に、南の溜まりという沼が出てきます。この世のものではない、あの世の景色として描写されているのですが、五色沼を想起させます。
その手前に猫魔ヶ岳があり、猫石があります。
猫魔ヶ岳の麓に猫魔温泉があり、星野リゾートがあります。
村上春樹が執筆のために会津近辺に滞在していたとすれば、猫魔温泉に泊まって、猫魔ヶ岳に登って、猫石を見たかもしれません。
これらが聖地化されたなら、ハルキストたちの巡礼の年になるでしょう。

第三部は、また壁に囲まれた街に戻ります。

以上は客観的分析です。
以下は主観的感想です。
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posted by eno at 19:03| 読書 | 更新情報をチェックする

2023年05月27日

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posted by eno at 11:20| 仕事 | 更新情報をチェックする